はじめに

本研究室では,情報工学分野における数値計算を基盤とした数理科学.応用数学を基盤としたシステム理論. 高等学校普通教科数学における内容学に関する3つの分野を研究の柱としています.

システム理論

動的ゲーム理論
ゲーム理論に関する研究分野では,大別して静的ゲームと動的ゲームが存在します.動的ゲームは微分ゲーム ともよばれるが,これらの最も大きな違いは,ゲームの進行が時間依存するかどうかにあります. ジョン・ナッシュ(John F. Nash,1928-)は,これまでの「ゲーム理論」の進展に革新的な貢献をしたとして 1994年にゼルデン,ハーサニとともにノーベル経済学賞を受賞しました.彼が考案したナッシュゲーム理論は, 非協力ゲームにおける「均衡解」を与えます.その結果,「個々が自己の利益を追求するあまり,全体の利益が 促進されない」といった危機的状況を改善することが可能となりました.ナッシュ均衡論の応用範囲は, 経済学・工学・情報科学・政治学・生物学など多岐に渡っており,応用例として「独占禁止法」が有名です. 本研究では,制御理論に焦点を絞り,ナッシュ均衡論に基づく戦略が,消費コスト削減や不確定要素に対してロバストである 等,システム全体の利益促進に関してどのような影響を与えるのか調べることを目的としています. 詳細はこちら

伊藤の微分方程式による確率システム
近年,伊藤確率微分方程式\(dx(t)=f(x,t)dt+g(x,t)dw(t)\)によって記述される確率制御問題は, 多くの研究者によって扱われています.ここで,\(x(t)\in {\rm\bf R}^n\)は状態ベクトル, \(w(t)\in {\rm\bf R}^1\)は一次元標準ウィナー過程を表します. このシステムを扱う重要性を裏付ける例題として,バネ定数が統計的な不確定要素を伴う場合に, システムが伊藤確率微分方程式に従うという結果が知られています. 本研究では,これらのシステムのLQ確率制御,\(H_{\infty}\)確率制御, \(H_2/H_{\infty}\)確率制御問題を扱っています.

マルコフジャンプシステム
システムの故障や環境変動に伴って,システムのパラメータが変化したり,あるいは構造そのものが変化するといった場合, システム全体の安定性の崩壊や,過渡応答性等のパフォーマンス低下の原因となることは,以前から良く知られています. 従来より,物理モデルのシステムパラメータが劇的に変化する,あるいは不規則なモード遷移を伴う システムを扱う手法として,マルコフジャンプシステムによる解析手法が注目されています. マルコフジャンプシステムは,マルコフチェーンによって決定された 有限集合モデルの間の移行によって表現されるハイブリッドシステムの一種で, 実際,ワイヤレスネットワークにおける通信容量の変化や,VTOLヘリコプタモデル における対気速度変化によるモデル変化を表現する等,多くの実績が報告されています. このようなシステムに対して,ロバスト安定化をはじめ,動的ゲーム理論への応用の研究を行っています. 得られた研究結果の一部はこちら

LPV(Linear Parameter Varying)システム
通常, 不確定要素はモデル化誤差として表現され, 様々な種類の動的システムに含まれています. これらのモデル化誤差をスケジューリングパラメータの変動としてシステム表現する手法に, LPVシステムが良く用いられます. 一般に, LPVシステムは, \(\dot{x}=A(\theta(t))x(t)+B(\theta(t))u(t)\)\(A(\theta(t))=\sum_{k=1}^M\alpha_k(t)A_k, \ B(\theta(t))=\sum_{k=1}^M\alpha_k(t)B_k\) の形で記述されます. ここで,係数行列は, 時変パラメータ\(\theta(t)\)に依存しており, \(\alpha_k(t)=\alpha_k\geq 0\), \(\sum_{k=1}^M\alpha_k(t)=1\), \(M=2^r\)を満足します. LPVシステムは, 多数のパラメータ変動をモデル化することができ, 数多くのプロセスや制御対象に適した数学的モデルを提供しています. 本研究では,これらのシステムの動的ゲーム理論の適用を行い, より複雑な社会システムにおける問題を扱っています.

特異摂動システム
特異摂動システムとは,時間変動的に速いダイナミクスと遅いダイナミクスを併せ持つシステムです.一般的に, 特異摂動システムは,サブシステムである退化システムが\(\dot{x}_1=f(x_1,x_2,t)\)で記述され, サブシステムである境界層システムが\(\varepsilon \dot{x}_2=g(x_1,x_2,t), (\varepsilon>0)\) の形で記述されます.ここで,\(\varepsilon \)は,摂動項とよばれ,十分小さな正の定数を表します. 具体的には,無視できるような質量,浮遊容量,浮遊インダクタンス等を表します.これらの値は,既知であることもあれば, 直接測定できない未知の定数であったりします.一方,特異摂動システムの一般化として, \(\varepsilon_j \dot{x}_j=f_j(x,t), \ (\varepsilon_j>0, \ j=1, \ 2, \ \cdots, N)\)の形を とるシステムをマルチモデルシステムと言われます.マルチモデルシステムと特異摂動システムの違いは, マルチモデルシステムのほうがより広範なシステムを記述できる点です.マルチモデルシステムはマルチエリア 電力システム,乗用車のアクティブサスペンション制御等に現れることが知られており,システムの記述手法 として広範囲に利用されています.本研究では,これらのシステムの安定化や最適制御,動的ゲーム理論の応用を扱っています.

弱結合システム
弱結合システムは,大規模システムの一種であり,一般的に, \(\dot{x}_1=f_1(x_1,t)+\varepsilon f_2(x_2,t)\)\(\dot{x}_2=g_2(x_2,t)+\varepsilon g_1(x_1,t)\) の形で記述されます.ここで,\(\varepsilon \)は,弱結合項とよばれ,十分小さな定数を表します. 特異摂動システム同様,これらの値は,既知であることもあれば,直接測定できない未知の定数であったりします. 本研究では,これらのシステムの分散ロバスト制御や動的ゲーム理論の応用を扱っています.